銀座数寄屋通り法律事務所[旧 中島・宮本・溝口法律事務所] >HOME

弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2011.08.31

地震の後で

 地震の後、どうも具合が悪かった。
 私自身は被災したわけではなく、株の暴落で大損した程度で(かなり痛かったけど。)、津波の映像、原子力発電所の事故、避難生活を送る人々や、絶望的な政治家たちのニュースを目にし続けただけだが、これらがボディーブローのように効いたのかも知れない。仕事のバタバタや、私生活のアレコレも重なって、いつの間にか、曰く言い難いストレスを酒にぶつける日常に迷い込んだ。そして、すっかり忘れていたのだが、毎日の大量飲酒の結果、数年ぶりに痛風の発作が炸裂してしまい、こうなるとイライラやモヤモヤやウツウツを解消する術が完全に失われることになった。酒を飲んで「放電」するわけにはいかないし、もちろんランニングもできない。なんせ風が吹いても痛い。歩くにも足を引きずるような体たらくだったわけで。しかし走れずにウダウダしながら、ようやく痛風の発作が治まると、再び毎晩のように泥酔するという隘路にはまって身動きがとれなくなり、気付けばジワジワと太り始めた。......我ながら情けない。ホント。
 そんなわけで4月から5月にかけては、ひどい毎日だった。
 しかし、夏も過ぎようとしている今、ようやく立ち直りつつある。これといって明確な契機はなかったように思うのだが、思い当たる節もないではない。学生時代の先輩で、郡山市内で開業している女性税理士との会食は、その一つだった。彼女自身や家族は無事だったものの、それでも「地元」ならではの悲惨な話しも多く、しかしそんな中、彼女は、笑いながら、「セシウムだか、ベクレルだか知らないけどさ、お陰さんで肌がキレイになったわ」と語ってくれた。見る限り、肌がキレイになったようには全然思えなかったのだが(先輩、ゴメン)、ヤケクソにも近い前向きさに感動した。そういうタイプの人じゃなかったように思うのだが、年月とともに、そして一つの大きな出来事によっても、人は変わる。
 どん底な気分の毎日から復調する中、当たり前の日常に感謝しなければならないと強く思うようになった。地下鉄の階段を下りる時。パソコンのスイッチをオンにする時。いつものバーでウィスキーを飲む時。普段とおりの変わらない日常を生きられることが、決して当たり前のことではなく、とてつもなく貴重な偶然の積み重ねに過ぎないと感じるようになった。
 あの日を境に世界が変わったと言う人もいる。だけど、私は、あの日の前から変わらない日常を、日常が、変わらない日常であり続けていることに感謝しながら生きようと思う。依頼された案件にできるだけ時間を割いて丁寧な仕事をしよう。増えてしまった体重を絞り、今度のフルマラソンでは高めの目標を設定しよう。そして、目の前のよしなしごとのひとつひとつを処理していきながら、それらの先にあるものもなるべく長いスパンで見据えたいと思う。
 というわけで、マラソンだ。私にはこれがある。次の大会は11月3日の湘南国際マラソン。目標は3時間40分!!先輩に倣ってヤケクソにも近い前向きさだ。スゴイぞ、ぼく。このレースに向け、7月の末から禁酒生活に入っている。私にとって、フルマラソンの前に100日間の禁酒をするのは恒例行事だ(まだ3回目だけど。)。タイム短縮への効能は疑問だが、私の場合、酒量を上手くコントロールできない以上、早朝のトレーニングを二日酔いでフイにしないようにするためには、一滴も飲まないという選択肢しかない。
 いつもと同じように4時半に起き、体重を量ったら、ランニングシューズに足を入れる。そして、いつもと同じ自宅周辺のコースを走る。昨日までと変わらない同じコースを、昨日より少しだけ速く走る。相変わらずの暑さだが、昨日より風が涼しく感じられる。この間まで、うるさいくらいに鳴いていたセミの声はもう聞こえない。晴れ渡った空の高く遠くに、いわし雲が見える。