弁護士 宮本 督
エッセイ:to be a Rock and not to Roll
事務所開設10年を迎えて
謹んで新春のお慶びを申し上げます。
お陰様をもちまして、当法律事務所は、2001年1月1日の開設以来、本日をもちまして、10周年を迎えることができました。本年を次の10年に向けての飛躍の年とするため、より一層の努力を、一歩一歩、謙虚に続けていきたいと、誓いを新たにしています。
皆様には、倍旧のご指導とご援助のほど、伏してお願い申し上げます。
と、堅苦しい挨拶はここまでにして。
弁護士登録をして最初に勤務した法律事務所でいろいろな騒動があって、登録後わずか2年9ヶ月間で独立してしまったのが10年前。ボクは30歳だった。あれから10年経って、ボクは40歳になった。
いろいろと思い出せば、実に多種多様で膨大な数の案件を経験させてもらった。マスコミで大きく報道されるような事件もあったし、新しい法律問題を扱って判決が判例集に掲載された事件も結構ある。世間的なニュースバリューはないのだろうけど、個人的に思い出深い事件も数多い。上手く行ったこともあるし、当然ながら、上手く行かなかったこともある。
ただ今さらながら思うのは、ボク達の仕事は、調査や聴取や検討に時間と手間がかかることが多いのだけれど、結局、これらに時間と手間をかければかけるほど、この仕事の面白味が増すということだ。ざっと聴いて分かったつもりになるだけでなく、紛争に至るまでの様々な伏線も含めて、いろいろな人から何回にも分けて話しを聴き直し、残されている資料で裏付けが取れるかを確認して、疑問点をまた調べ直す。法律や判例の調査でも、その背景にある事象も念頭に置いて、ひとつひとつ調べていく。大変な労力だし、結果として無駄になる作業も多い。確かに、同時に多数の案件を手掛けているわけだから、一件一件にかけられる時間も自ずと限界はある。だけど、自分たちで解決できなくて法律事務所に持ち込まれるような事案の成り立ちは、いつだって平面的ではなく立体的なものだ。いろいろな角度から光を当て、ゆっくりと考え直すことで、ようやく本質(と思われる部分)が見えてくることも多い。忙しさを言い訳にして、受け流すように仕事をこなしてしまうと、何も見えていないまま徒手空拳で闘うことになり、もちろん失敗する可能性が高くなるし、仕事をしていてもフラストレーションが溜まることになる。
丁寧に手間隙をかけることは仕事の成功にも結びつくが、ある意味、ボクにとっては、それ以上に大切なこともある。プロフェッショナルとして弁護士という仕事を選んだ以上、勝敗という個々の結果だけでなく、不完全ながら一人の職業人として、縁あって引き受けることとなった案件のすべてについて、するべきことはした、尽くすべき力は尽くした、と禍根を残さないことの方が大事で、そのために、ボクは、次の10年間も、毎日の地味な仕事を、一歩一歩、地道に謙虚に続けていきたいと思う次第です。