弁護士 宮本 督
エッセイ:to be a Rock and not to Roll
赤と黒とパルムの僧院と恋愛論と
...であり,それが原告の従前の主張と整合せず,その矛盾が,原告に,一方で本件売買契約が有効に存続していることを前提とする所為がありながら,他方で,本件売買契約を解除する旨の意思表示を行っていることに基因することについては暫く措くとしても,そもそも,双務契約について契約の解除を行う場合,解除当事者は,自らの未履行債務について履行の提供の要があるが,原告は,被告に対し,平成17年×月×日付け内容証明郵便を差し立てて本件売買契約を解除する旨の意思表示をするに際して,この履行提供を行っていないから,原告が主張するところの解除原因,すなわち被告の債務不履行の存否に関わらず,上記の本件売買契約解除の意思表示は無効なものといわざるを得ない。...って、意味判ります?
これは、最近、私が担当してる(珍しいことに、ちゃんと自分で法廷に行ってる)案件で、裁判所に提出した書面の一部なんですが(私は被告側の代理人)、一読して、直ちに言ってることがわかるっていう人は、やっぱり、普通じゃないと思います。
私も、今、自分で読み返してみました。うん。普通じゃない。やっぱ、おかしいよ。
一応言っておきますが(なお念のため付言するに)、裁判所に提出される文書って、大体、全部が全部、こんな感じです。私だけが、変ちくりんな文章を書いているワケじゃありません。相手の弁護士も同じような感じですし、裁判官が書く判決書も同じような文体になります。
しかし、しかしですねえ。どうしてって、本当に、何が悲しくて、みんなで、こんなワケのわからない文章を書かないといけないんでしょうか?
正確に書くためとか、ゼッタイ嘘です。
本当のことを教えてあげましょう。悪文の典型のような難解な文章の羅列は、一般の人に、弁護士とか裁判官とかって、エライッ(偉い)!アッタマイーッ(頭いい)!って、思ってもらうためです。他に理由はありません。
それはそうと、法律や法律家の悪文って、この国のことだけではないと思いますが、そういえば、文豪スタンダールって、ナポレオン法典を座右の書にしていたのって、知ってます?ナポレオン法典って、近代法の基礎の基礎、例えば、「契約自由」とか「過失責任」とか「所有権絶対」とか、そんなのが確立されていたので有名なんですが、しかし、スタンダール大先生も、こんなのを読んで文章を磨いていたとすると、フランス文学の奥深さを感じないではいられません。
学生の頃、「赤と黒」とか、ぜーんぜん、まったく意味が判らんかったからなあ。法律家になったことでもあるし、もう一度、読み返してみようかな。