弁護士 宮本 督
エッセイ:to be a Rock and not to Roll
オッサン、英検1級ニ挑戦セリ(其ノ弐)
2016年1月、海外在住経験のない、いわゆる「純ジャパ」の45歳のおっさんが、1年後の合格を目標に英検一級の受験を決意した。久しぶりの受験勉強だ。
勉強を始めてみたものの、何を素材にどんな勉強をすれば効果的なのか、またまた暗中模索。
しかし、受験と言えば、塾だ。そう、私は、受験戦争の生き残り。受験の申し子だった。というわけで、3月からは、週に一回、塾に通って2時間の講義を受けることにした。久しぶりの塾通い。ちょっとだけワクワク。この予習と復習をコアに、その他、塾で紹介された教材等を勉強の中心にすることにしたが、何よりも苦労したのが、勉強時間の捻出。仕事は普通に忙しい。読書も、早朝のランニングも、夜のお酒も止めたくない。いろいろ試行錯誤の末、平日の早朝と、土日をできるだけ勉強に充てるようにした。具体的には、平日は朝4時に起きる。ランニングの前後に勉強をして、出勤。日中は仕事をして、その後はもう勉強なんてしたくないし、お酒は止められないから、飲みには出掛けるけど、できるだけ控えめにして遅くとも夜8時半には切り上げて、何があっても10時には眠る。仕事は、できるだけ平日の日中に集中して取り組み、土日は極力、仕事から離れるって感じで、一週間のタイムテーブルを組んでみることにした。読書はしばらく諦めることに。まあ仕方ない。
課題は決まった。時間も確保した。後はやるだけだ。
しかし、なかなか成果が上がらず、いらいらする。早朝に起きる。でも眠い目をこすりながら、脳科学についての最新の学説とか、温暖化による北極地方の生態系の変化とか、日本語で読んでも理解が難しそうな文章を英語で読んでもさっぱり頭に入らない。頭を切り替えよう。リスニングの練習だ。しかし、ちょっと聞きとれない箇所があると、そこが気になってしまい、その先がうまく耳に入ってこなくなる。あーもー。しょーがない。次は、単語を覚えるぞ。英検一級受験用の単語帳が市販されている。過去問から2400語を収録。これを一日40個ずつ覚えていく。まずは昨日の復習なのだが、覚えたはずなのに、もう忘れている。あーつらい。いい年をして、何でこんなことをしているんだろうって、素朴な疑問がフツフツと湧いてくる。もー嫌だ。勉強を止めたい。ホント、今すぐにでも止めたい。
ある日、ひらめいた。そうだ。早く受かって、早く止めよう。
というわけで、当初の目標の2017年1月実施試験での合格を前倒しして、2016年10月の合格を目指すことにする。そうすると、必然的に、勉強計画も前倒ししなければならなくなって、さらに大変なことになった。4時起きは、3時起きになり、やがて2時には起きるようになった。もはや朝型ではなく、一周回って夜型。
迎えた10月の試験。大学の大教室で試験を受けるなんて、久しぶりで、ちょっとだけドキドキ。勉強の成果が出て、筆記はスイスイ行ったのだが、筆記試験直後に休憩時間なしで実施されるリスニングで、まったく集中することができずに撃沈した。不合格と思い込み、二次のスピーキングの試験準備にはまったく手をつけずにいたら、なんと合格してしまっていた(スコアはギリギリだったけど、ってスコアが出るんです。)。発表を見て唖然茫然。二次試験まで2週間しかないよ。どうしよ。「英語でお話し」なんて、空港やホテルでしかしたことがない。とほほほ。取り急ぎ、オンライン英会話を始めることにして、2週間、頑張ってみたけど、もちろん不合格。
仕方なく、当初の目標通り、2017年1月の合格を目指して勉強再開。実は、一次試験を合格すると、その後しばらくの間、一次は免除を受けられて、二次から受験できるのだけれど、もう一回、ちゃんと合格しようと思い、免除は利用しなかった。これで落ちたらバカみたいだなと思ったのだが、一次試験は余裕のスコアで合格。前回に落ちてから、ずっとスピーキングの練習は続けていたので、二次試験もクリアできた。
さて、めでたく、予定通り、一年間の勉強を経て、英検一級を取得したわけだが、それがどれくらいの英語力か、正直なところをお話しさせていただきたい。
英語の本や新聞は、時間はかかるけど、まあ読める。もちろん、難解な文章は、読むのに苦労するけど、それは言葉の問題じゃなくて、内容の問題で、日本語でも同じことだ。それから、英語のニュースは、まあ聴きとれる。アナウンサーが原稿を読んでいるのを聴きとるのは、集中すればなんとかなる。でも、映画やドラマを、字幕なしで視聴することはまず不可能。ものにもよるけど、特に映画はハードルが高い。仕事上で英文でメールのやり取りをするのは、まずまず支障がない。作文に時間はかかるけどね。英語での会議も、一対一とか少人数で、相手が、こちらの英語力に気を遣ってくれれば、聞き取りはなんとかなる。結局、英語で話すのが、一番、大変。話しながら、話すべきことを日本語で考え、それを日本語→英語に高速翻訳していることに気付く。適切な言い回しが見付からないことも多いし、仮に瞬時に英語表現を思い付いても、やっぱり、日本語→英語の転換作業に時間がかかっているので、なかなかスムーズに行かない。思考自体を英語で行えればよいのだろうし、そうする必要があるのだろうけど、そんなことができるようになるのはいつの日か。
というわけで、苦労してここまでたどり着いたけど、まだまだ先は長いというのが実感。ただ、英語なんて、所詮、コミュニケーションのツールに過ぎないわけで、言葉の勉強にもうこれ以上の時間を費やす気にはなれず、そうかと言って、勉強をまったく止めてしまうと、退化することは間違いなく、ここまでの努力が水の泡になる。力を維持するための効率的な方法って何かないか、相変わらず試行錯誤が続いている。