銀座数寄屋通り法律事務所[旧 中島・宮本・溝口法律事務所] >HOME

弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2017.04.21

不寛容な人々の思考停止

 マサチューセッツ工科大学のある研究機関が、社会の助けになるルール違反行為(暴力行為は除く)を表彰し、2万5000ドルの賞金を授与することにしたというニュースを目にした。所長による趣旨説明は、「市民運動や独立運動は反抗から生まれた。人に言われたことをするだけでは、社会は変えられない。法律やルールが、何のためにあるか、考えることが大切」というもの。
 こういう賞こそ、是非、この国で実施して欲しい。そんな風に思うのは、この国には、お上の決めたことを疑うことすらできない可哀想な人々がとても多いから。
 ちょっとした例を一つ挙げてみよう。例えば、大麻。
 オランダでは70年代から解禁されているし、スペインでも合法。ドイツ、フランス、イギリス、ポルトガル等では、法改正まではされていなくても、個人による使用は(栽培も)放任されているのが実情と聞く。カナダも最近、解禁に踏み切ったし、米国でも、少なくとも医療用大麻は多くの州で合法化され、嗜好用マリファナもカリフォルニア州を含め多くの州で解禁されている。先進国で、大麻の個人的な所持や使用の取締りに違和感を覚えない国は、むしろ例外だ。
 そりゃそうだろう。医療用大麻についていえば、がんの疼痛治療などで、モルヒネ系の鎮痛剤では効かないような痛みを和らげられる効果が判明しているし、だいたい、大麻の依存性が、タバコやアルコールよりはるかに低いことは科学的に証明されている。
 それなのに相も変わらず法禁物であるため、この国では、低能な若者が、「危険ドラッグ」なんて呼ばれる合法で(法で禁じられていない)薬理性の高い物質に手を出し、交通死亡事故を多発させている。大麻の取引は、それが法規制の対象であるがために、暴力団の資金源になってしまっている。「危険ドラッグ」の問題の解決は、実は簡単。大麻を解禁すればいい。若者も、高額でワケの分からないドラッグより、安価に入手が可能になる大麻を嗜好するようになるはずだから。解禁してしまえば、当然、それが暴力団の資金源になるようなこともない。
 少し前、参議院議員選挙に出馬経験のある女優が大麻取締法違反で逮捕されたことが、大きく報じられていた。しかも、南の島で複数の男性と暮らしていると、非難めいて、面白おかしく記事にされていた。彼女は、立候補の際、大麻の解禁を公約に掲げていたそうだが、逮捕後の報道に、その主張を真面目に検討するようなものは見かけなかった。
 この国には、「反権力」を標榜しながら、権力が定めたルールには何の疑いも持つことがないという不思議な人が多く暮らしている。芸能人の不倫報道などでもよく見かけるが、そういった類の人たちが、誰にも迷惑をかけることのないような個人的な悦楽に対するバッシングを嬉々として繰り返している。多様性への理解や他人への寛容さや深い思考に欠け、また欠けていることにさえ意を払うことをしない人々の多さは、衰退していくこの国の現在と未来をさらに暗いものにするだろう。