銀座数寄屋通り法律事務所[旧 中島・宮本・溝口法律事務所] >HOME

弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2010.06.29

なるか?サブフォー

 6月12日は、新潟の魚沼で、ハーフマラソンの大会に出た。7月4日のゴールドコースト・フルマラソンに向けての準備と予行練習のためのレースだ。
 入梅直前の湿度の高い晴天で、気温が30度近くになる中、午後2時にスタート。舞台は米どころなもので、コースの大半は水田の中の農道で、日除けになるものは何もない。しかも、折り返しまでの前半は弱い追い風という最悪のコンディションだった。弱い追い風だと、ランナーは無風の中を走ることになり、特に暑い日には、体内に熱がこもり続けることになるのだ。
 真上から照りつける真夏のような太陽が、気力も体力も奪っていく。太陽の照り返しに、サングラスをしているのに目がくらむ。ちなみに、サングラスもキャップも、ノースリーブのシャツも短パンも、そういえばアンダーパンツもソックスも、身につけているもののうち、ストップウォッチとシューズ(とカツラ)以外は、すべてユニクロ。私は、ファーストリテイリングの株主なのだ。というわけで、がんばれユニクロ。ついでに、がんばれボク。
 しかし暑さのため、予定していたペースの維持は早々に諦めざるを得ないことになった。レース後半になると、脱水症状のため倒れ救護を受けるランナー達をそこここで見掛けるようになる。
 ふと、私の目の前のおじさんランナーの走りに目を奪われる。首を左に傾け、右腕だけをくるくると振り回しながらふらふらと走っている。あんなフォームでよく走れるなと感心しつつ、よく考えると、あのおじさんは私の前を走っているということは、私より速いのかと思い、自分はどんなフォームで走っているのかが気になって、影を探す。太陽が真上に近いため、影は短く、フォームの特徴が分かりにくい。それでじっと影を見つめていると、ほぼ真下を見ながら走り続けることになって、吐き気をもよおしそうになった。
 休みの日に、わざわざ一人で新幹線に乗って、こんなところまで(地元の人、ごめんなさい。とってもいい所でした。)やって来て、こんなことをして、いったい何をやっているのだろうという惨めな思いにとらわれる。なんとかゴールしたものの、ひどいタイムだった。暑い中のレースでやむを得ない面もあるのだが、それにしても残念な結果で、本番での目標達成が心配になる。

 ゴールドコーストマラソンでの目標は、4時間切り。「サブフォー」と呼ばれる3時間台でのフルマラソンの完走は、ゴルフのスコアでいえば100の壁のように、マラソンにチャレンジするランナー達の誰もが最初に掲げ、意識する大きな目標だ。
 もともとまともな運動経験のない40歳のメタボおじさん(そう、私、こないだ40歳になりました。その話は、またいつか。)が、ジョギングを始めてから約1年間でサブフォーを達成するのは、「奇跡」とは言えないまでも、決して「普通」なことではなく、すなわち、かなり高いハードルなのだが、これでも何回か目標を下方修正してきている。これ以上、「志望校」は下げられない。
 フルマラソンを4時間以内で走り切るには、1キロを5分41秒でカバーしなければならない計算になる。給水やトイレや、後半のペースダウンを考慮すると、悪くてもキロ当たり5分30秒のペースが必要になる。そんなわけで最近のトレーニングは、1キロを5分30秒程度で走ることに主眼を置いている。湿気が体にまとわりつく6月の東京で、私は、ほぼ毎朝、キロ当たり5分30秒というレースペースを意識しながら、7キロか、日によっては10キロのランニングを続けてきた。

 ゴールドコーストで4時間を切れなかったら、もう日本に帰れない。そうすると、オーストラリア人になって暮らすしかない。現地で弁護士資格を取って働くのはどうだろう。鉱物資源開発会社に日本企業との取引についてアドバイスし、たまにコアラ泥棒の犯人の弁護をして、仕事を終えるとラグビーの観戦に出かける。そんな馬鹿馬鹿しいことを考えながら、でも真剣に走る。キロ5分30秒。序盤のオーバーペースは終盤の失速につながるので、調子がいいと感じても、決めた速度を守ることが重要だ。
 レースまで残り2週間を切ってからは、疲労を抜くために休養日を多く設け、1日当たりの走る距離も短くしているが、キロ当たり5分30秒というペースは変えない。この速さを体にしみこませるように走っている。気付くと再び妄想の中にいる。40歳以後の残りの半生をオーストラリアで牧場でも経営して過ごすのはどうだろう。狭い国で、法律だとか裁判だとか税金だとか、もう、たくさんだ。株主総会の指導にも債権者集会での説明にも労働組合との団体交渉にも、もう、うんざり。これからは、高くて広い空の下、放牧されてのんびりと牧草を食む牛の横で、心おきなく読書をして暮らす。...悪くない。だけど、そんな空想に浸っていると、ついキロ5分30秒のペースが狂ってしまう。

 ゴールドコーストマラソンまで、あと5日(関係ないけど、すなわち禁酒96日目)。
 それでは、少しの休暇を頂いて行って参ります。