弁護士 宮本 督
エッセイ:to be a Rock and not to Roll
出世していく皆様
私どもの事務所では、お客様は、会社というか法人というか企業というか、そんなのが多いわけですが、そうはいっても、打ち合わせをしたりするのは、担当者の方なわけです。会社によって、法務部とか総務部とか、いろいろありますが。
そうすると、裁判とかの依頼案件の処理が長くなると、皆様、係長から課長になるとか、総務部長から大阪支店長になるとか、外資系企業だったりすると本国へ帰国するとか、皆様、それぞれ、ご栄転というか、ご出世されて、担当者変更と相成るわけで、そうすると、私と未解決の紛争だけが取り残されることになるわけです。顧問先企業だと、裁判とかがなくても、日常的にお付き合いがあるわけで、ご担当の方は、がんがん偉くなって、がんがん交代です。
そういえば、裁判官や検察官もそうです。裁判がグチャグチャになって、私としては(多分、相手の弁護士も)、もう投げ出したいと思うような事件がたまにありますが、裁判官は、しっかり転勤して、どこかに行って偉くなります。偉くなってくれるのは結構ですが、当然のことながら、事件は東京地裁に置きっ放しです。
先日、高校時代の同窓会がありました。我々も、もう大人ですから、名刺の交換とかするわけです。民間企業に就職したのも、官庁に勤めてるのも、果ては、大学に残って研究とかを続けてる連中も、皆様、大層な肩書をお持ちで、さらに数年に一度は名刺を取り替えることになるのでしょう。
そうしてみると、弁護士というのは、一生、ただの弁護士なわけで、弁護士会の会長とか、そーゆーのはそーゆーのが好きな人がやってるだけですから、やっぱり、そんなことに興味のない私のような一介の弁護士は、多分、引退するか転職するか死ぬか資格を剥奪されるか...まで、ずっと、ただの弁護士なわけです。
別に、愚痴をいってるわけではないんです。いや、ほんとです。むしろ、自慢です。出世欲っていうんですか、そういうの、なくっても、私、なんとか前向きに仕事できます。そりゃね、「オレ、何やってんだろうな」って、思うことはありますよ。でも、そんなの、どんな仕事でも、みんなそうでしょ。
課長とか、取締役とか、学部長とかになる道はありませんが、私、結構、このシノギ、つまり弁護士業務のことですが、面白いです。面白いって、誤解されると困るんですが、出世とか、そんな仕事の励みはなくても、なかなか、やり甲斐があるんです。ほんとです。だから、今日も、働いているんです。多分、明日も、明後日も。多分、来年も、再来年も。
いつまでも偉くはなることだけはありませんが。