弁護士 宮本 督
エッセイ:to be a Rock and not to Roll
Cigarettes & Alcohol
オアシスというイギリスのロックバンドをご存知だろうか?彼らのデビューアルバムに、「Cigarettes & Alcohol」という作品が収録されている。仕事も生き甲斐も見付つけられない男が、「オレに必要なのは煙草と酒くらいだ」と、うそぶく。
司法試験を受けてる頃によく聞いていた。とにかく金がなかった。いつでも汚い格好で、煙草と酒以外、特に、楽しみのない日々。煙草を吸いながら、訳の分からない法律書と格闘し、眠くなると栄養ドリンクを注入する。あの頃は、受験仲間と津田沼の安酒場で馬鹿騒ぎをするのが唯一の贅沢だった。
私はそんな風に弁護士になった。そして、今では、少なくとも傍目からは、それなりにやってるようにも見えるらしい。
しかし、「人生の手触り」は、何も変わらない。オアシスは相変わらずカッコイイ。それはいいが、お受験のための法律書が、事件記録ファイルに姿を変えて、日に夜に私にのしかかる。着ている服は、もちろん安物ばかり。そして、眠気を抑えるためのカフェインの錠剤を手放すことはない。そして、山のように吸い殻をこさえながら仕事に追われ、眠気にも嫌気にも吐き気にも、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、それでいよいよダメになると、酔いつぶれて眠る。毎日毎日、それだけ。もちろん、趣味を楽しむ時間も、新しい女の子を追いかける余裕もない。まさに、「All I need are Cigarettes & Alcohol」なのである。太ったせいか、年をとったせいか、馬鹿騒ぎする元気はなくなったけど。
どうしてこんなことになったのかと、ときどき、眠れない夜に考える。でも、そんなことを考えていると、気になっている裁判のことが脳裏に浮かび上がって来て、悶々とさせてくれる。そして、また、新しい煙草に火をつけ、ウィスキーを胃に流し込む。やれやれ。
私は、きっと、仕事が大好きなのだ。最近では、そう思い込むようにしている。いや、間違いない。当たり前だ。この世の中、弁護士業務以外に楽しいことなんてあるはずない。何年も前からずーっとそうだった。
さて、仕事しよ。さっき、煙草が切れたと思ったら、机の片隅に買い置きの一箱を発見した。
All I need are Cigarettes & Alcohol...そんなわけで、私は、今、すこぶる機嫌がいい。少なくとも、そう思うことにしている。