弁護士 宮本 督
エッセイ:to be a Rock and not to Roll
2001.08.15
ダンス・ダンス・ダンス
会社の合併、分割、業務提携、ストックオプション。商事法務の依頼案件が多くなると、どうしても、結局、弁護士は、大量消費社会の憐れな奴隷に過ぎないことを思い知らされる。弁護士は、紛争を予防し、紛争を作り出し、紛争をまとめ、紛争を蒸し返し、そのうち、自分が、ただ消費されるだけの存在であることを自覚させられる。
しかし、私は、自らの空腹だけでなく見栄も満足させねばならない。大量に(そして、あまりにも気前よく)失ってきたものの代わりに、なにがしかの安らぎを得なければならない。そして、それを守り続けていかなければならない(たぶん)。
これもまた、私が選びとった世界。私は、私の仕事の中に、私なりの呪いを込める。詰め込んでこね回す。
夏休みのど真ん中。8月15日。日本中が休みだ。電話も鳴らないし、E-MAILも来ない。しかし、私は、今日も書類の山に埋もれている。そして、のたうち回って、呪いを込めた言霊を発信する。たかだか言葉でハイになれる職業を疑問に感じてはならない。
先刻、相手方弁護士の構築した理論は、私の手により、ボロボロに粉砕され、その死滅が確認された。「こんなもん、循環論法に過ぎない」、「根拠を欠くことはいうに及ばず、そもそも、議論の前提において当を得ない」、「無知か、あるいは独自の見解に立脚するもので、まともな検討にすら値しない」。
私は煙草に火を付ける。すこぶる上機嫌だ。