企業と法律
企業倒産
企業のための民事再生の法律相談
弁護士 宮本 督
8. 民事再生とM&A
(5) 民事再生手続における営業譲渡の手続
倒産企業の営業の価値は倒産状態であることが明らかになると急激に劣化するのが通例で、営業譲渡による事業の再建のためには、いかに営業譲渡を適正かつ迅速に行なうかにかかっています。
民事再生法は、このような要請に応え、再生手続開始決定後であれば、再生手続によらなくても、裁判所の許可を得て、営業譲渡をできるものとしました(42条1項本文)。この許可は、営業譲渡が「当該再生債務者の事業の再生のために必要があると認められる場合に限り」与えることができるとされていますが(同条項ただし書)、必ずしも営業譲渡をしなければ事業の継続が困難なような場合に限ず、営業譲渡が、事業の維持や弁済率の確保、あるいは雇用の維持等の観点から、再生にとって必要であるという場合でもよいと考えられています。
なお、裁判所は、この許可をする場合には、知れている再生債権者・労働組合等の意見を聴く必要があります(42条2項・3項)。
しかしながら、この規定は、裁判所の許可を得さえすれば、営業譲渡に必要な他の手続を省略できるという趣旨ではありません。したがって、取締役会の決議・株主総会の決議・公正取引委員会の手続等、他の法律で要求されている手続は、いずれも必要となります。ただし、再生手続開始後に、株式会社である再生債務者が債務超過の状態にある場合には、裁判所は、再生債務者の営業の全部または重要な一部の譲渡について、商法に定める株主総会の特別決議に代わる許可を与えることができるものとされました(代替許可といわれます。ただし、この代替許可は、その営業譲渡が事業の継続のために必要な場合に限られます(43条))。再生債務者が、その財産をもって債務を完済することのできない状態(債務超過)にある場合、このような会社の株主権は実質上無価値なものと考えられ、株主に会社に対する発言権を認める必要はなく、むしろ、営業を早期に譲渡することがその事業の維持と継続にとって必要不可欠という場合には、資産が劣化しないうちに営業譲渡を実現することが必要で、その方が債権者にとっても利益になることが考慮されたものです。
なお、この代替許可は、法42条の裁判所の許可とは別のものであるということに注意が必要です。従って、株式会社の場合は、通常、法42条の許可の他、商法245条1項の特別決議が必要ですが、その会社が債務超過の場合には、それに代えて、法42条の許可の他、法43条所定の代替許可で足りるということになります。また、この代替許可の制度は、株式会社のみに認められたものです。したがって、有限会社など他の組織形態の企業の場合には、それぞれの法律で必要な手続を履践する必要があります。
法42条の裁判所の許可を得ずに行った営業譲渡は無効ですが、その相手方が裁判所の許可を得ていないことを譲渡の当時知らなかった場合には、その無効を相手方に対して対抗することができないとされています(42条4項・41条2項)。また、営業の一部の譲渡であって、それが重要な部分とまではいえない場合は、42条の規定の適用はありませんが、保有資産の処分などについては監督委員の同意を要するという命令が出されていることが多いと思われ(54条2項)、その場合には、重要な部分の譲渡でなくても、監督委員の同意を要することになります。ただし、この場合には、上記のような債権者の意見聴取や労働組合の意見聴取は、法律上は要求されていません。
ところで、再生債務者が営業を譲渡しようとしても、その対象資産については担保権が設定されている場合が多いと思われます。このような場合でも、その財産が事業の継続に欠かすことのできないものであるときは、再生債務者等は、裁判所に対して、その財産の価格に相当する額の金銭を裁判所に納付して、その財産の上に存するすべての担保権を消滅させることの許可を申し立てることができます(148条)。事業を引き受けて再生するスポンサーがいて、事業譲渡代金を債権者等への弁済原資とする場合には、この規定によって、対象資産の価格に見合った金額を裁判所に納めて担保権を抹消し、譲渡を実現することができます。