企業と法律
企業倒産
企業のための民事再生の法律相談
弁護士 宮本 督
8. 民事再生とM&A
(3) 他の倒産手続における営業譲渡の方法
営業譲渡は、民事再生手続以外の倒産手続において行うことも不可能ではありません。しかしながら、従前の倒産手続における迅速な営業譲渡は、機能不全に陥っていました。
まず、破産手続の場合、破産宣告後、いわゆる営業継続型破産として事業継続を行い(破産法192条。なお、破産した企業の営業を継続するかどうかは、第1回債権者集会で決議されますが、それまでの間は、破産管財人が裁判所の許可を得て、営業を継続することができます。)、その後、破産管財人が裁判所の許可を得て営業譲渡することができます。大倉商事のケースでは、このような手続が採られました。しかしながら、破産管財人がこのような方法を採択してくれる保証がないばかりか、破産手続は、あくまでも清算型の倒産手続ですので、破産申立後、急激に商権が失われ、従業員も離散する傾向があるため、間髪いれずに譲渡の手続を採らなければ成功しないのが実情です。
また、会社更生法でも、更生計画で営業譲渡を定めることができると規定されています(会社更生法211条)。しかしながら、更生計画が作成されるのは早くても倒産後1年以上の後のことになり、その間の資産劣化を避けることができません。また、開始決定の後、更生計画を待たずに営業譲渡をすることも、昨今、日本リースのケースでこのような方法がとられましたが、やはり、開始決定の後、一定の時間を経なければこのような処理をすることができません。そうかといって、申立後間もない保全管理の段階で営業譲渡をすることについては、裁判所が極めて慎重な姿勢を採っており、いずれにしても、会社更生手続は、倒産直後のスピーディな処理に適する手続ではありません。
このような問題があるため、従来、裁判所を利用しないいわゆる任意整理手続によって、営業譲渡をすることが行われてきました。具体的には、まったく別の企業に営業譲渡をする方法の他、新会社を設立した上で収益部門のみを営業譲渡し、旧会社は清算処理するという方法(第二会社方式といわれます。)が採られることがありましたが、裁判所を利用する法的処理に比べ、手続の透明性、安定性に欠ける点があり、特に、後日の清算手続段階で、このような行為が否認されてしまうという不安を完全に払拭することができないという問題がありました。