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企業と法律

企業倒産

企業のための民事再生の法律相談

弁護士 宮本 督

8. 民事再生とM&A

(1) 営業を譲渡してしまうと、企業を再生できないのでは?

 民事再生手続では、原則として従来の経営陣は経営権を失うことなく、引き続き業務執行ができます。しかし、業務執行に著しく問題があったような場合には、裁判所は、例外的に、職権であるいは債権者等の利害関係人の申立てにより、管財人(開始決定前は保全管理人)を選任することができます(管理命令・保全管理命令の発令)(法64条・79条)。管財人等が選任されると、業務執行の権限や財産の管理処分権は管財人等が全て持つことになり、従来の経営陣は経営権を失ってしまうことになります。
 したがって、民事再生手続では、経営陣(役員)としての従来の地位が必ず保証されるわけではなく、業務執行に極めて大きな問題があったり、著しく不公正な行為を行った場合には、地位を剥奪される可能性があることを認識しておく必要があるでしょう(もっとも、経営陣が、その意思に反して経営権を奪われるような事態はかなり例外的なものと思われます。)。
 この他、民事再生手続では、会社更生手続と同様に、役員に対する責任追及が厳しく行われる可能性があります。
 管財人が選任されている場合は管財人が、管財人が選任されていない場合は再生債務者自身又は債権者は、開始決定後、役員の責任を追及する損害賠償請求権の査定の裁判を求めることができます(143条)。これは会社整理(商法386条1項9号)や会社更生(会社更生法72条1項2号)にならった制度ですが、役員に背任行為や不正行為があり、これによって会社に与えた損害について役員の損害賠償責任を簡単で費用のかからない査定という制度で管財人や債権者らが追求することができるというものです。なお、会社整理手続や会社更生手続では、債権者には査定の申立権が認められていませんが、民事再生手続では原則として再生債務者が業務遂行権を有しており、法人である再生債務者が自らの役員に対して適切に査定を申し立てることは期待できないことから、民事再生手続に最も利害関係を有する再生債権者にも申立権を認められました。
 この査定の申立てに先立って、管財人や債権者は損害賠償請求権の回収を確実にするために、役員の財産に対し仮差押や仮処分などの保全処分の申し立てをすることもできます(142条)。
 査定の申立てや保全処分は開始決定後に行うことができますが、保全処分については、緊急の必要があるときは、申立後開始決定前にも発令することができることになっています。
 このように、民事再生手続では、会社更生手続と同様に、役員に対する責任追及が厳しく行われる可能性もあります。また、民事再生手続の申立によってダメージを受ける債権者が、債務者に対する牽制のため、この査定の申立や保全処分の申立をする可能性もあります。したがって、経営陣は再生手続の申立にあたってこの点を充分に認識しておく必要があるでしょう。もっとも、役員の損害賠償責任が認められるのは、違法行為等があった場合であり、原則として、純然たる経営判断ミスまでが損害賠償責任の対象となることはありません。