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企業と法律

企業倒産

企業のための民事再生の法律相談

弁護士 宮本 督

6. 民事再生と取締役

(1) 民事再生の申立によって、経営権は剥奪されてしまうか

 民事再生手続の申立て、あるいはその後の開始決定によっても、原則として経営権の移動・交替は起こりません(38条1項)。会社更生手続や破産手続では、保全管理人や管財人が選任されて、経営権や財産の管理処分権は全て管財人等に移り、従来の経営陣は完全に経営権を失います。
 これに対し、民事再生手続では、和議手続と同様に、原則として従来の経営陣がそのまま業務を遂行(続投)することができ、財産の管理処分権を持つことになります。その後の再生計画案の作成も、再生計画の実行も従来の経営陣自らが行うことになります。
 このため、オーナー色の強い企業や従来の経営陣の存在が再建に必要不可欠な企業でも、安心して再生手続を利用することができます。
 ただし、裁判所は、不正が行われないよう監督するため、監督委員や調査委員を選任して、債務者(経営陣)の業務遂行を監督させることになります(54条・62条)。監督委員は、債務者の業務遂行を監督し、債務者が重要な行為をするにあたっての同意権を持ちます(和議手続上の整理委員の立場に似ています)。また、再生計画認可後3年間は計画の履行を監督します。調査委員は、債務者財産の詳細な調査等を行って裁判所に報告をすることになります。
 なお、法律上、監督命令の発令と監督委員の選任は必要に応じ行うこととされていますが、東京地方裁判所の実務上は、ほぼすべての事件について、監督命令を発令して監督委員を選任する取扱いがされています(大阪地方裁判所も同様の取扱いです。)。調査委員については、大規模な会社や粉飾など不正な経理処理がされているおそれがある場合などに選任されることになると考えられます。ただし、監督委員(や管財人)が選任されている場合、裁判所は、これらの機関に必要な調査を命じて報告を求めることで、その目的の多くを達成できると思われ、調査委員を別に選任する実例は少なく、監督委員が必要に応じて公認会計士等の補助者を用いて調査・報告をしているようです。
 このように、民事再生手続では、従来の経営陣がそのまま経営を行うことができる訳ですが、倒産を引き起こした経営陣に経営を任せることが妥当でない場合もあります。例えば、再生債務者が債権者間の公平を害する財産の処分を行ったり、放漫な経営を続けて、再生債務者の財産を減少させたり、再生債権者の多数が経営者の交替を希望している場合など、引き続き再生債務者に業務の遂行をさせるのが適当でないような場合には、例外的に管理命令が発令され(64条1項)、再生債務者の業務遂行権や財産の管理処分権はすべて管財人に専属し(66条)、再生債務者の従来の役員は経営権を失うことになります(38条3項)。