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企業のための民事再生の法律相談
弁護士 宮本 督
2. 再生開始決定まで
(9) 再生開始決定後の権利取得
民事再生法は、再生手続開始の後に、再生債務者の行為によらないで、再生債権について再生債務者の財産に関して権利を取得しても、その効力を主張することができないと定めています(44条1項)。したがって、例えば、売買代金を先払いした買主が、売主の民事再生開始決定後、第三者から再生債務者の財産である売買目的物を受け取った場合も、所有権を取得したと主張できず、売主に無条件で返還しなければなりません。なお、開始決定がなければ商事留置権が成立する場合であったとしても、この買主は、商事留置権の主張をすることは許されず、また、受け取った時点で、売主について再生手続開始決定のされていることを知らなかったとしても同様です。
この規定は、破産法54条、会社更生法57条と同様、再生手続開始決定によって、再生債務者の財産に対し一種の包括的な差押えがされたとみて、その時点での財産を総債権者のために確保することを目的としたものです。
なお、この規定は、第三者の偶然の行為による場合についてのもので、再生債権者が、再生債務者の行為によって再生債務者の財産に関し権利を取得した場合については規定していませんが、このような場合は、85条1項により開始決定後に再生債務者が再生債権に対する弁済をしたり、再生債権を消滅させる行為をしても、その効力は生じないこととされています。