企業と法律
企業倒産
企業のための民事再生の法律相談
弁護士 宮本 督
2. 再生開始決定まで
(3) 強制執行の中止・取消し
再生手続の開始決定がされると、各種の倒産処理手続、強制執行、民事保全手続等は、それらが継続中であれば中止または失効し、新たに行うことはできなくなります(39条1項)。しかし、申立から開始決定がされるまでの間に、これらの手続が進行してしまうと、再生債務者の財産が散逸し、再建に支障を生じる場合があります。そこで、民事再生法は、開始決定前でもこれらの手続を中止させ、再生債務者の財産が散逸してしまうことを防止するための制度を導入しました。
これが、他の手続の中止命令等の制度で、これにより、強制執行を中止したり取り消したりできることがあります。
裁判所は、再生手続開始の申立があった場合において、「必要があると認めるとき」は、利害関係人の申し立てにより又は裁判所の職権的判断で、再生手続開始の申し立てにつき決定があるまでの間、[1]再生債務者についての破産手続、整理手続又は特別清算手続、[2]再生債権に基づく強制執行、仮差押もしくは仮処分又は再生債権を被担保債権とする民事留置権による競売手続、[3]再生債務者の財産関係の訴訟、[4]再生債務者の財産関係の事件で行政庁に係属しているものの手続(行政不服審査法による不服申立手続等)の中止を命ずることができます(26条1項)。ただし、[2]の手続については、その債権者にもたらす影響の重大性から、さらに、「その手続の申立人である再生債権者に不当な損害を及ぼすおそれがない」ことが必要とされています(同条項但書)。
なお、この中止命令は、既に着手された手続に対してされるものであり、その手続をそれ以上進行させない効力しかもたず、それまでの手続を遡及的に無効としたり、取り消したりするものではありません。そのため、例えば差押の効力などはそのまま維持されることになり、事業の再生に重大な支障を及ぼす可能性があります。
そこで、民事再生法は、裁判所は、「再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めるとき」は、再生債務者(保全管理人が選任されている場合は、保全管理人)の申し立てにより、担保を立てさせて、中止した手続の取消しを命ずることができることとしています(26条3項)。この命令は、既に中止されている強制執行手続等に対して、さらに、それを超えてその手続を取り消してしまうものですから、対象財産が再生債務者の事業の継続にとっての不可欠であったり、代替できないものである場合にしか認められません。
例えば、再生債務者の主力工場に差押えがなされただけでは、再生債務者はその工場を相変わらず使用することができるのですから、「事業の継続のため特に必要がある」とは認められないでしょう。これに対し、再生債務者の商品の大部分が差押えられてしまった場合などは、再生債務者はその商品を処分して売上を上げることができなくなりますから、「事業の継続のため特に必要がある」と認められるケースもあるでしょう。