企業と法律
企業倒産
企業のための民事再生の法律相談
弁護士 宮本 督
2. 再生開始決定まで
(2) 弁済禁止と借財禁止の保全処分
1. 弁済禁止保全処分ついて
弁済禁止の保全処分とは、裁判所の定める特定の日(通常、保全処分発令日)以前の原因に基づいて生じた債務の弁済を禁止する処分で、特に手形を発行している会社の場合、この保全処分命令を得れば不渡処分を回避することができるメリットがあります。実務上、申立の当日に開始決定がされるといった特別の場合以外、ほぼ例外なく申立の当日に発令されています。
ただし、一定の債務については、弁済禁止の対象から除外されているのが通常です。例えば、現在、大阪地方裁判所で使用されている定型例では、〔1〕租税等、〔2〕給与等の労働債務、〔3〕公共料金債務、〔4〕通信費用が弁済禁止から除外されています。東京地方裁判所での定型例では、これらに加えて、〔5〕事務所の備品のリース料、〔6〕10万円以下の債務も除外されています。
なお、保全処分対象外とされていない債権について弁済の必要があるときは、個別に保全処分の一部解除の許可を得て弁済することもできます。
この保全処分が発令されているにもかかわらず、弁済等の債務を消滅する行為がされた場合、その当時、保全処分がされたことを知っていた再生債権者に対する関係では、保全処分違反行為は無効となります(30条6項。)。これに対し、再生債権者が、当時、保全処分が発令されていたことを知らなかった場合には、弁済自体は有効です。ただし、再生債務者が保全処分に違反する行為をした場合、手続廃止決定の原因となるため(193条1項1号)注意が必要です。
2.借財禁止の保全処分について
資金繰りの逼迫した企業では、不利益な条件による借財や手形割引が行われがちで、民事再生の申立直後にもこのような借財が行われる可能性があるため、借入及び手形割引を禁止する保全処分(借財禁止の保全処分と呼ばれます。)が発令されることがあります。
大阪地方裁判所では、保全処分決定書の定型主文に含まれています。
ただし、回収した手形を割引によって換金することで資金調達を図る必要がある場合も多く、実務上、保全処分の一部解除を得て、手形割引等が行われています。