企業と法律
企業倒産
企業のための民事再生の法律相談
弁護士 宮本 督
1. 民事再生手続とは何か
(8) 申立の取下の制限
民事再生法は、事業の再建を円滑に進めるため、申立後の段階で、債権者の権利行使を大きく制限する弁済禁止保全処分などの様々な強力な手段を債務者に与えています。このため、立法に際しては、米国でのチャプターイレブンの申請に見受けられるような濫用のおそれが指摘されました。
そこで、民事再生法は、債務者が再生手続開始の申立をし、保全処分を得た上で、債権者からの追求を免れ、その後、申立を取り下げるという、いわば保全処分の「食い逃げ」等の濫用を防止するため、申立の取り下げに一定の制限を設けることにしました。
つまり、再生手続開始の申立をした者は、再生手続開始決定前にしか申立を取り下げることができず、ただし、開始決定前でも、他の手続の中止命令等(26条1項)、包括的禁止命令、仮差押、仮処分その他の保全処分(30条1項)、担保権の実行手続の中止命令(31条1項)、監督命令(54条1項)、保全管理命令(79条1項)がされた後は、裁判所の許可を得なければ取り下げることはできません(32条)。
裁判所の許可がされる場合としては、例えば、〔1〕申立後にスポンサーがつき、M&Aにより事業を再生することが可能になった場合、〔2〕再建の見通しが立たないため、民事再生手続での再建をあきらめ、破産で処理しようとするときに、破産申立を行った上で再生手続の申立を取り下げる場合などが考えられます。
なお、申立後、保全処分は発令されたものの、債務者が積極的に再建の努力をせず、手続の引き延ばしを図っているに過ぎないような場合には、「不当な目的で申立てがされた」とき、または「申立てが誠実にされたものではない」ときに該当するとされて申立が棄却されることもあり(25条4号)、その場合、職権で破産宣告がされることになります(250条)ので、注意が必要です。