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弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2015.02.27

先生は著名な文化人

 弁護士は「先生」って呼ばれる。弁護士になって18年。なりたての頃の違和感はすっかり消えた。仕事をしているときだけじゃない。行きつけの飲み屋さんとかでも、スタッフや常連客から、そう呼ばれる。ただもちろん、誰も、私のことを尊敬とかしてるわけじゃない。
 「先生、そこの灰皿。悪いけど取ってよ」
 「先生、何食ってんの?ちょっと、ちょうだいね」
 「先生、また酔っ払っちゃったの?もー何言ってっか、全然分かんないよ」
 「先生、またね。あ、明日も来るよね」
 「前から聞きたかったんだけどさ、先生って、結局、何の先生なの?」
ってこんな感じ。私って、みんなの人気者。身近で身軽でフレンドリー。
 そんな耐えられないほど存在の軽い先生稼業の私だったのだが、この度、新聞のインタビュー記事に登場してしまった。しかもあの日本経済新聞。しかも一面ぶち抜き。しかも写真入り。しかも写真は大小2枚。
 登場したのは、洋楽ロックの広告ページ。毎月、一組のミュージシャンを取り上げ、そのアーティストについて、著名人・文化人・有識者から選ばれた一人が思い入れを語るという企画だ(というようなことが取材の依頼書に書いてあった。)。そして、今年2月25日の日本経済新聞夕刊では、ドイツのハードロックバンド「スコーピオンズ」が取り上げられたのだが、その語り手として、著名で有識な文化人の中から選ばれたのは、ナ、なんと、単なる無名弁護士だったはずのこの私。先生は(あ、ついに自称しちゃった)、少年期からのロック体験と併せ、スコーピオンズのライブについて曲について歌詞についてギターについて、アツーく語っちゃったのである。しかも一面ぶち抜き。しかも写真入り。しかも写真は大小2枚。しつこい?あ、そう。
 私がマスコミのインタビューを受けるのって、2パターンしかなくて、まずその1は、関与している事件について取材を受ける場合。その2は、法律専門家として、法律問題についての意見を求められる場合。今回のように仕事とか弁護士資格とまったく関係なくメディアに登場したのは初体験で、それはそれは新鮮で、とっても緊張したけど、楽しくて楽しくて、予定時間を超えて喋りまくった次第。
 というわけで、そろそろ先生は、飲み屋とかで気楽に軽々しく声をかけられるような立場からは卒業しようと思う。なにせ、先生は、日本経済新聞お墨付きの著名な文化人なのだから。関係ないけど、中国語で言うと「著名的文化人」(きっと)。英語で言うと「ユー メイ カルチャー パーソン」だ(多分)。そしてしかも先生は、有識者でもあるわけ。中国語で言うと・・・以下略。

 下々(しもじも)の皆の衆へ告ぐ。これからは、飲み屋とかで会っても、もうあんまり遊んであげられないけど、気を悪くしないでね。みんなと先生とは、身分が違うんだからね。じゃあね。ばいばーい。(あ、でも、やっぱり、あんまり放っておいたりしないでね。)

宮本の本棚から

「はい、泳げません」高橋秀実

 極度のカナヅチである著者が、コーチのアドバイスに右往左往しながら泳げるようになるまでの苦闘の2年間を描いた作品。名(迷?)言過ぎるコーチのアドバイスを著者の頭がひねくりまわす様にひたすら笑える。
 コーチは言う。「考えちゃダメ。無意識で泳ぐんです」と。リラックスすればよいのかとの著者の問いに、「リラックスしようとしないで下さい」。…考えない、そしてリラックスもしない。ではどうすればよいのか?との疑問には、「それも考えないことです。」と言われ、著者は本当に何も考えられない状況に陥り、緊張のあまり小便がしたくなって、そのまま水中で漏らしてしまいたい欲求に駆られる。
 そもそも作者は、大量の水(プールや海)を目の前にすると足がすくむ人。コーチのアドバイスを、水泳教室以外の時間にも考え続け、進化論やら、クロールの歴史やら、古来の日本式の泳法やら、禅やらに思いめぐらせて奮闘するが、でもやっぱり泳げない。
 笑えます。面白いです。オススメします。
 でも泳げない方が、この本を読んで泳げるようになるとは思えません。念のため。