弁護士 宮本 督
エッセイ:to be a Rock and not to Roll
ミック・ジャガーは、何を食っているのだろう
ローリング・ストーンズの8年ぶりの東京公演に参戦。2月26日の東京ドーム。8年前の前回は、ステージ付近の最上席のチケットの価格が話題になったが、それでも5万5000円だった。今回はなんと8万円だ。ただ、昨夜、8万円席にいた客のほとんどは、8年前にやはり5万5000円席にいた連中なのだろう(ボクもそうです)。周囲で、若い客を目にすることはほとんどなかった。
ストーンズのコンサートの楽しみ方には、いろいろあるのだが、コアなファンの間では、ギタリストのキース・リチャーズの、もはやミスとは言えないほどのメタメタでヘロヘロなプレイと(年を追う毎に劣化が激しい)、ミック・ジャガーのパワフルなパフォーマンス(年々、すごみを増していく)との対照が挙げられることが多い。
ストーンズは結成50周年を超え、幼なじみのミックとキースは、ともに70歳になった。キースは、もともと、個性的ではあるけれど、上手なギタリストというわけではなかったのだが、近年のライブでは演奏ミスが特に目立つようになり、前々回や前回のツアーでは、明らかに手数が減り、ひどい時は何の曲が弾かれているのかすら分からないというようなこともあった。昨夜のキースは、さらにまったく元気がなく、もはや2時間のコンサートでギターを弾き続けることは無理ではないかと思われる状態。イントロをやり直したり、左手でコードを押さえる前に右手で弦を弾いてしまったりして(ホントです)、客席もいつものハラハラ・ドキドキを通り越して、思わず笑い声がもれてしまうようなシーンもあった。しかし、70歳という年齢を考えれば、仕方のないことなのかも知れない。
対照的なのは、ミック・ジャガーだ。序盤の数曲は、ちょっと調子が悪いのかとも思ったが、それ以後は盛り返し、いつも以上の迫力と異次元のパワーで5万人を相手に君臨した。
コンサートの最大の見せ場は、中盤。かつてのメンバー、ミック・テイラーをゲストに迎えて演奏された「ミッドナイト・ランブラー」だった。約10分間に及ぶこの長い曲の間、ミック・ジャガーは、東京ドームの右中間から左中間までを駆け回り、センターから2塁ベース付近まで伸びる花道を縦横無尽に行き来し、叫び、踊り、吠えながら、観客を煽り立てた。圧巻。あんなにエネルギッシュな70歳って、考えられない。
アンコールの「サティスファクション」を聴き終えて、東京ドームを後にしながら、ふと思った。ミックって、一体、何を食っているのだろう、と。
宮本の本棚から
ノンフィクション・ノベルというジャンルがあって、実話を基にした創作ということなのだろうが、トルーマン・カポーティの「冷血」がその先駆けと言われている(ノンフィクション・ノベルという語も、カポーティの造語らしい)。んで、この「誘拐」は、正にこの分野の金字塔。
東京オリンピック直前の昭和38年。東京の下町で起きた男児誘拐殺人事件(吉展ちゃん事件)を題材に、その犯人、被害者、捜査陣、そして彼らの先祖、家族、友人、知人。新聞記者出身のノンフィクション作家が、取材で集めた膨大な情報を基に、事件の背景や捜査と解決に至る経緯を、約50年前の風俗と風景を基調に克明に綴った作品。詰め込まれた情報が多過ぎて、読みやすいとは言い難いのだが、何よりも、著者の熱意に圧倒される。ミック・ジャガーのパフォーマンスも凄いけど、仕事というものは、やっぱりこういうレベルまでやり尽くさないといけないんだね。きっと。