弁護士 宮本 督
エッセイ:to be a Rock and not to Roll
弁護士と事件の数
弁護士が1人で、何件の事件を同時処理しているのか、依頼者から聞かれることは少なくない。忙しいと有能な弁護士と思うのか、それとも、忙しいと自分の事件をきちんと処理してもらえないと思って聞くのか、質問する人の真意はよくわからないが、私は正直に応えることにしている。
平成13年4月29日の今日、私が抱えている案件は、大小併せて、訴訟になっているものと交渉中のもので、合計43件。その他、顧問会社から頼まれる契約書のチェックや日常的な相談が常時あって、相当な数になる。
この数を聞くと、依頼者たちは一様に驚く。超人的な仕事ぶりを想像するらしい。しかし、弁護士は、別にスーパーマンではない。例えば、訴訟を例に採ると、訴えるときも訴えられるときも、まず、事情を細かく聞き、判例等を調査し、依頼者の主張を裏付ける証拠があるかどうかをチェックし、なければ関係者に協力を求めて事情を聞いたりするという作業を行い、最初の段階で大まかな方針を決めることになる。そして、この作業を終えてしまえば、法廷が開かれるのは概ね月に1度。最後に証人尋問という、また大変な仕事が待ってはいるが、それまでは、主張と反論を積み重ね、争点を整理し、和解による解決の可能性を探るという作業が月に1度行われるだけで、その法廷に向けての準備作業もあるとはいえ、何とか、こなしていけるだけの量である。
しかし、正直なところ、訴訟と交渉は、30件程度が適正規模と思う。40件を越えるとしんどい。そうはいっても、性格上と責任上、手を抜けない。特に、仕事量が目一杯のところに、突然、来週の資金繰がつかないから倒産したいという依頼や、特許権侵害といわれて商品の製造差止の仮処分を申し立てられてというような依頼が舞い込んで来るようなときは、なぜ、今来るのか、もっと早く相談に来てくれなかったのかと、つい、愚痴の一つもこぼれる。でも、何度でもいうけど、性格と責任が邪魔してくれて手を抜ことだけはできない。ゴールデンウィークは、南の島でゴルフでもしていたいところだが、そんなわけで今日も、事務所で書類の山に埋もれている。そして、それでも、私の依頼者のすべてが私の仕事に100%満足しているわけではないことも私は知っている。
仕事を一緒にやっている事務所の事務局員たちは、弁護士にだけはなりたくないという。残念で憎たらしいが、気持ちはよく分かる。先日、私が独立して、この銀座数寄屋通り法律事務所を開設したことで、司法研修所の同期の弁護士たちがお祝いをしてくれた。暇な人もいるが、やっぱりみんな忙しそうで、仕事の山に押しつぶされそうな毎日を送っていた。司法研修所では、大学を出たばかりで、合コンに明け暮れ、朝まで酒を飲むより他、特にすることもなかったような連中(私も含む)が、今では、睡眠時間を削ってン億円の裁判を手がけている。でも、うまく行くことばっかりじゃなくて、みんな悩んでる。
少年老いやすく学成り難し。そうはいっても、どーってこともなく、どーしようもなく、「薄利多忙」の日常はただ続いていく。
こんな文章書いてるなら、早く仕事を片付けろなどと受験生の母親みたいな説教はしないでね。