弁護士 宮本 督
エッセイ:to be a Rock and not to Roll
弁護士報酬規定と独占禁止法の関係について
弁護士への依頼者が、弁護士に支払う弁護士報酬については、弁護士法33条2項8号によって、報酬の標準を弁護士会の会則の必要的記載事項とされ、さらに、同法46条2項1号によって、日本弁護士連合会(日弁連)会則の必要的記載事項とされています。
多くの弁護士が、この弁護士報酬規程の定める標準額によって、または、この標準額を参考に、弁護士報酬規程を定めているのが実情です。
しかし、最近、このように、弁護士同士が報酬の標準額の取り決めをすることが、独占禁止法に違反するのではないかという議論がされるようになってきました。
独占禁止法は、事業者および事業者団体をその取締りの対象とし、1.私的独占、2.不当な取引制限、3.不公正な取引方法を、「公正かつ自由な競争を阻害するもの」として規制しています。
そこで、まず、弁護士が、この「事業者」(独占禁止法2条6項)にあたるかが問題となります。ここで、「事業者」とは、経済活動にかかわりのある事業を行う者で、営利の目的を持って行うか否かを問わず、また、個人であるか法人であるかも問わないとされています。そうとすると、弁護士がこれにあたることは明らかといえるでしょう。
これに対し、日弁連は、弁護士に対する、資格、業務等に関する各種の規制を理由に、競争制限が前提とされているので、独占禁止法上の「事業者」にはあたらないとする立場をとるようですが、弁護士に対する各種規制は、競争制限を前提とするほど強いものではありませんし、弁護士についても開業主体として事業を行っているものと見るべきで、この考え方は成立しないと思います。
次に、弁護士報酬規定の存在が、上記「不当な取引制限」(同条項)に該当するかどうかが問題となります。ここで、「不当な取引制限(カルテル)」とは、複数の事業者間で契約、協定、その他名目のいかんを問わず、価格、数量、取引の相手方等につき相互に取り決めをすることによって、互いに競争を制限したり、競争を止めたりすることをいうと定義されています。すると、弁護士報酬規定を日弁連の会則として規定し、これに対する違反を懲戒事由等として、これに一定の拘束力を与えている以上、弁護士報酬規定を設けることは、独占禁止法2条6項の、「共同して対価を決定"する等相互にその事業活動を拘束」する行為(いわゆる相互拘束行為)にあたり、この不当な取引制限にあたるといえるでしょう。
この点に関しては、日弁連は、弁護士報酬規定は拘束力が薄弱なことを強調し、カルテル疑惑を回避しようとしています。たしかに、弁護士が依頼者と報酬額を決めるにあたっては、弁護士報酬規程を参考にはしても、事件の特殊性とか、依頼者の資力とか、いろいろなことを考えているのが実態で、日弁連がこのような解釈を採用する気持ちは分からないではありません。しかし、弁護士報酬規程にも、一定の拘束力があることを否定できない以上、妥当な見解とは思われません。
すると、弁護士報酬規程は、独占禁止法違反ということになります。
ただし、私としては、弁護士報酬規定が、独占禁止法に背馳するとしても、独占禁止法によって排除される等の帰結にはならないと考えています。といいますのは、各弁護士会によって報酬の標準を定めること、さらに、各弁護士会の会則違反行為を懲戒事由をすることを、弁護士法はそれぞれ予定しており、そうとするならば、この弁護士法の報酬標準額を定立すべきとの規定が、経済法の一般原則を定めた独占禁止法(一般法)の特別法として、例外を規定しているものと考えられるからです。