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企業のための民事再生の法律相談

弁護士 宮本 督

3. 民事再生と債権者

(1) 債権者側から見た民事再生法のポイント

 資金繰りが決して楽とはいえない多くの中小企業にとって、取引先が民事再生法による再生手続は、自らの経営にも影響を及ぼすことがある。特に、大口の取引先が民事再生手続をとると、死活問題にもなりかねない。

 そこで、債権者の側から見た再生手続、すなわち、取引先が再生手続を取ったら、取引先に対する売掛金などの債権がどのように取り扱われるのかを解説したい。

 倒産処理として、もっとも多く利用されるのは、破産法による破産手続である。破産手続は、債務者の資産をすべて処分して債権者に公平に配当する手続きであるから、債権者としては、裁判所に債権届出をして配当を待つしかない場合がほとんどである。

 これに対し、民事再生法による再生手続は、手続きを取った会社の営業を継続させ、再生させることを目的とするものであるから、その目的に適うように債権の発生原因や性質などによって、取り扱いが細かく分かれている。

 具体的には、(1)再生債権、(2)共益債権、(3)一般優先債権、(4)開始後債権、(5)別除権付債権、に分かれており、再生債権については、その性質により更に取り扱いが異なっている。

「再生債権」は、再生手続開始前の原因に基づいて生じた債権である。すなわち、債務者が再生手続開始の申立を行い、要件を満たすときは裁判所の開始決定により再生手続が開始されるのであるが、この開始決定より前の原因(例えば、開始決定前に融資をしたような場合)によって発生した債権のことである。

 再生債権は、原則として、再生計画の定めによらなければ、弁済を受けることができない。再生計画は、再生債務者が作成し、債権者集会における可決と裁判所の認可を経て確定するが、ほとんどの場合、債権額の大幅カットや弁済の猶予を主な内容としている。例えば、債権額を8割カットし、5年後から5回の年払にする、といったもので、この場合、500万円の売掛金であれば、400万円がカットされ、残りの100万円を5年後から毎年20万円ずつ5回支払うという内容に変更されてしまうのである。

 一般債権の債権者にとっては、債権額が大幅にカットされるだけでなく、支払がかなり先送りされるので、債権額が大きい場合は、自社の資金繰りにも影響を及ぼすことになる。

 このようなことから、再生債権に対する弁済制限の例外として、再生債務者を主要な取引先とする中小企業者が、再生債権の弁済を受けなければ事業の継続に著しい支障をきたすおそれがあるときは、裁判所は、その全部または一部の弁済を許可できるものとされている。

 再生債権に対する弁済制限のもうひとつの例外は少額債権に対するもので、裁判所は、再生手続の円滑な進行のために、少額の再生債権に対する弁済を許可することができる。自社の債権が少額である場合は、この許可の対象になるものかどうか確認するとよい。

 なお、再生債権については、所定の手続により届出期間内に債権届出を行わなければならないので注意を要する。

 次に「共益債権」は、再生手続に関する裁判費用のほか、再生手続開始後の再生債務者の業務や財産の管理処分に関する費用、再生手続開始後の資金の借入等によって生じた請求権などが該当し、再生債権と異なり、再生計画によらずに随時弁済を受けることができる。したがって、再生手続開始後の再生債務者との業務上の取引による債権については、再生計画によってカットされたり弁済が猶予されたりすることはない。

 なお、再生債務者は、再生手続開始申立後再生手続開始前に、裁判所の許可を得て、借入や仕入を行うことができるが、これにより相手方に生じる債権についても、共益債権となる。

「一般優先債権」とは、国税等の租税債権や民法・商法等により一般の優先権が認められている債権(労働債権など)のことであり、再生手続外で随時弁済を受けることができる。

「開始後債権」は、再生手続開始後の原因に基づいて生じた債権であって、共益債権、一般優先債権、再生債権のいずれにも該当しないものという。開始後債権については、再生計画で定められた再生債権に対する弁済期間が満了するまでは弁済を受けられない。

「別除権付債権」は、担保権付債権のことで、債権者は、民事再生手続に関わらず、担保権を実行することができる。ただし、裁判所は、一定の要件を満たすときに限り、担保権の実行としての競売の中止命令を出すことができる。

 取引先が民事再生手続をとったときに適切な対応をするには、まず、自社の債権がどの種類に該当するのかを判断して、どのように取り扱われるのかを十分認識する必要があろう。