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企業と法律

労働

続発する労使紛争と企業の対策
(近代中小企業 02.7)

弁護士 宮本 督

労使紛争の解決

 個別労使紛争について、昨年(平成一三年)、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」(個別労働関係紛争解決促進法)が成立・施行されるまで、日本では、諸外国の例(※)のようにこの問題に特化した特別の紛争解決制度は存在しませんでした。また、後述するように、この個別労働関係紛争解決促進法も、必ずしも、個別労使紛争のすべてに最終的な解決をもたらすものではありません。

※ フランスにおいては、労働契約に関する個別の民事紛争について専門の労働審判所が設置されています。労働審判所の手続では、判定部による判定手続に先立ち、調停部による調停手続が行われています。これと同様に、ドイツでも、すべての労働紛争を専門的に取り扱う労働裁判所が用意されています。労働裁判所では、職業裁判官一名と労使双方の非職業裁判官各一名ずつの合計三名で裁判体を構成します。
 イギリスでは、通常の裁判所であるコモン・ロー裁判所があり、ここで労働関係の紛争を含む契約違反による損害賠償を担当していますが、この他、労働審判所が設置され、特別の労働紛争や比較的低額の損害賠償事件を担当しています。
 以上に対し、アメリカでは、特に労働関係紛争を専門に行う機関はなく、労使紛争についても通常裁判所で処理されていますが、私的な調停や仲裁が広く利用されていることが特徴的です。

 したがって、いずれにしても、これらの問題は、一般的な民事上の問題の解決制度によって解決されることになるのが通例です。
 まず、個別労使紛争は、民事紛争の一種である以上、最終的には裁判所で解決されることになります。民事訴訟の概要については後述しますが、手続が厳格で、時間的にも費用の面でも当事者の負担も少なくないことから敬遠されがちです。また、司法機関による解決制度としては、裁判外紛争処理制度(Alternative Dispute Resolution:ADR)と位置付けられる簡易裁判所等における民事調停制度もありますが、少なくとも、労使紛争の解決という面では、充分に機能しているとはいえない状況です。
 行政機関にも、個別労使紛争の解決のための制度が用意されています。個別労働関係紛争解決促進関法の施行前には、労働基準法一〇五条の三に基づき、都道府県労働局長が紛争当事者に助言や指導を行う制度がありましたし、都道府県においては、労政主管事務所や都道府県庁の労政主管課などで、労働問題に関する相談が行われています。さらに、民間においても、弁護士会、労働組合、経営者団体等において、それぞれ労働相談や紛争解決のための取り組みがされています。しかしながら、いずれも、紛争の相手方を拘束できるものでないことはもとより、知名度も低いことから活発に利用されているわけではなく、充分に機能しているといえる状況にはありません。